(中編からの続きです。)
またまた話が逸れました。「リトル・ダンサー」の話でした。
なんだかんだと言いつつ、結局は妻に付き合うことにして一緒に観たのですが、バタークリームどころか、シンプルで品の良いカップに注がれたエスプレッソのような、良い香りとほろ苦さ、そしてラストシーンがたまらなく素敵で格好良い映画でした。邦題のせいで危うく、観ずに一生を終えるところでした。
カクテルや料理などと同じように、それらを言葉や文章で伝えるのは大変むずかしいのですが、観ていない人には是非ご覧になってもらいたいなぁ。以下の項目の、どれか一つでも当てはまる人であれば特に。
- 男性である(年齢問わず)
- 兄や弟など、男の兄弟がいる
- 多感な年頃の少年の親である
- T. REXやThe Clashほか、あの時代の英国音楽が好き・影響を受けた人
- 大味なハリウッド大作に食傷気味の人
- 泣かせる意図ミエミエの映画では、かえって泣けない人
もちろん、女性であっても、ひとりっ子であっても、ハリウッド好きであっても、良質な作品をお望みであれば自信を持ってお勧めします。
私とは逆に「リトル・ダンサー」というタイトルに惹かれて観た人も多いはずで、それはそれできっと良かったと涙したことでしょう。タイトルに関わらず良い映画ですし、リトル・ダンサーという邦題も、べつにけっして全くの的外れなタイトルではありませんので念のため。好き嫌いの問題と言ってもいいです。
この文章を書いている途中、ふと思ってネット上での評判を探ってみました。いくつか見ていて気づいたのですが、と言うのもこの「リトル・ダンサー」というタイトル、2重に損をしているんじゃないかと。というのも、本格的なバレエに興味がある・バレエをやっていた…などの人にとっては、どうも物足りないようです。
それはそうで、私が思うにこの映画は、本格的なバレエは本質ではないと思っています。「バレエ」は一つの味付けであって、これがたとえば、新体操でもシンクロナイズド・スイミングでもフェンシングでも良いと思うのです。本格的なバレエを観たければ、劇場に足を運ぶか、バレエのDVDを買うか、バレエ教室に通うかすればいいのです。
と、腹をたてても仕方ないことですし「バレエを題材にしたリトル・ダンサーという映画」との情報を、バレエに興味を持つ人が耳にすれば観たいと思うでしょう。バレエが好きな人にとっては期待はずれ、バレエに興味のない人にとっては見逃す恐れがある、という点で「2重に損」と書いた訳です。
" BILLY ELLIOT " DVD
第一、最初のうちはリトル・ダンサーが邦題だとは判りませんでした。
レンタルで借りるのはDVDの円盤だけでパッケージ無しですし、その後、作品を気に入って購入、じっくり何度か観るようになって初めて「あれ?どこにも『リトル』や『ダンサー』の文字が出てこない」と気づき、よくよく見れば元々のタイトルが別だと知ったのです。
ところで「リトル・ダンサー」という邦題を付けた人が必ずどこかにいる訳で、もしそのかたや関係者のかたがこの文章をご覧になっていたらご免なさい。
でも、リトル・ダンサーというタイトルで本質を見誤り、というのは大袈裟でも、見過ごしたり、未見の人もまた多いんじゃないかと思います。勿体ない。
最後になりましたが、この作品の原題は、そのまま、映画の中での主人公の少年の名前、
" BILLY ELLIOT( ビリー・エリオット )"
と言います。我が家のなかでは原題で呼ぶことが多いです。
書き下ろし 2008年 8月