(前編からの続きです。)
今回のコラム、実は私の言いたい事は全然違う内容なんです。このオレンジコラムは店のメールマガジン「オレンジメイル」からの抜粋と加筆が基本なのですが、今回はじめて書き下ろしのカタチをとりました。その分、いつもギリギリに絞った文字数の制限を意識せずに済むため、つれづれなるままにキーボードを乱打しております。これでも抑えているつもりなんですけど。
とにかく一気に話をジャンプさせます。私の言いたかった事、それは「映画のタイトル」です。ここで言うタイトルとは、洋画に付けられる邦題を指します。邦題も、時代などにより雰囲気もあって良いものですが、私の場合、邦題によって失敗をしてしまった、非常に印象に残る作品がひとつあります。と言っても、タイトルに惹かれて観た作品が、思っていたものと全然ちがって1800円損をした、という訳ではありません。その逆で、付けられた邦題のため、その作品に出会うのが遅れたというパターンです。その映画作品は「リトル・ダンサー(邦題)」と言います。どうです、気恥ずかしいでしょ?…私だけ?
ところで、我が家のレンタルDVDの借り方です。まず、私と妻の双方ともに観たい作品をひとつ、次に私が観たいものをひとつ、そして妻が観たい映画をひとつ……と、だいたい2〜3作品を借ります。
そこで「リトル・ダンサー」ですが、この映画は妻の選んだ1本でした。私はほとんどその作品知識はありません。新聞の映画書評か何かでチラッと字面を通過したおぼえがあるかないか、くらいです。そもそも、そんな甘ったるいタイトル作品はお呼びじゃありません。前編の情報話の取捨選択でいえば、初めから「捨」もしくは「無」です。
レンタル屋で借りる段になって妻曰く「良いらしいよ。男の子がバレエに出会う話だって」という言葉やパッケージ写真を見るに至っては、バタークリームのケーキに顔を突っ込んだ気分。
" ELECTRIC WARRIOR " T. REX
妻のリクエストなのでもちろん借りるけど、私は観ないつもりでした。もし、この時点でもう少し、違う角度からの情報があれば前向きの姿勢を持っていたかも知れません。
そもそも西麻布バーオレンジの店名の由来になった「時計じかけのオレンジ」。1990年前後、ある雑誌のコラムに「時計じかけのオレンジ」が紹介されていました。長らく海賊版しかなかったこの映画が、ようやくヴィデオ化、という内容です。
深く考えなければ一見、メルヘンチックとも思えそうなタイトルなのに、観ようと思わせる強烈な興味をもったのは、文章の横に映画のシーンの写真という「情報」があったからでした。
その写真というのは、頭や体および大きく見開かれた目を固定され(バージェスのナッドサッド語ふうに表現すれば「グラジーをクリップで開け放し、ガリバーもプロットもルーガーもノズも椅子に固定され」)恐れおののく風情の主人公のシーンでした。
当時、まだ大阪にいた私は思いました。「なんや知らんけど、オレンジやらいう可愛いらしいタイトルの割に、えらいギャップのあるエゲツない写真やなぁ。ほないっぺん、観てみよ。」
もし、この写真による情報がなければ、キューブリックとの出会いも無かったか、あるいは、ずいぶんと遅れたかも知れず、したがって店名も「西麻布バーオレンジ」ではなく「バー・中山」とか「バー・エディンバラ」になっていた可能性大です。
(後編へ続きます。)
書き下ろし 2008年 8月