近年のシングルモルト人気を支え、立役者となっているのが、これから述べる「ボトラーズ・ブランド」の存在です。ボトリング会社、又は単にボトラーなど、よびかたは様々ですが、要は…
自社でウィスキー蒸溜を行なわず、各地の蒸溜所から原酒を厳選して買い取り、自社の判断で瓶詰(ボトリング)する会社
…のことです。このような、瓶詰専門の会社(以下、ボトラーと記します)は英国のみならず、イタリアやドイツ、オランダなど外国のボトラーも含め、数多く存在します。これは世界各地でシングルモルト熱の高まりを示す具体例のひとつでしょう。ウィスキー蒸溜所が自分たちの手で世に送り出すウィスキー(以下、オフィシャルと記します)と何が違うのか、ボトラーの存在意義とは何か…の功罪両面を、前編と後編に分けて挙げてみます。
一見、同じウィスキーにみえる上の2本は、あるボトリング会社によるもの。中のウィスキーは全く別の蒸溜所のもの。
まず「功」の面です。スコットランド内に蒸溜所は100前後あると書きましたが、その全てがオフィシャルを出している訳ではありません。むしろ大部分の蒸溜所は、ブレンデッド用に原酒を供給するのが本来の姿でした。
そこで、普通ならばシングルモルトの状態では世間に出回らないウィスキーを、ボトラーが樽を買いとり、瓶詰して売り出すのです。確かにマイナーではあるけど、そのままブレンドされるだけでは惜しい原酒も多くあり、新たな発見は嬉しいものです。
次に熟成方法を変える点があります。具体的には、例えば熟成に使う「樽」です。ボトラー各社が持つ空樽に原酒を移し替えて独自の熟成を施すのです。空樽と言っても様々のタイプがあります。新品の樽とは限りません。むしろ、別の酒が寝かされていた空樽を用います。それも、アメリカのバーボンのようなウィスキー樽だけでなく、シェリーやポートなどのワイン樽、ラム酒の樽や珍しいものではコニャックやカルヴァドスといったブランデーの樽で熟成の仕上げを試みたりします。これらは、オフィシャルでは味わえない一面を見る事ができるでしょう。
(勿論オフィシャルでも、様々な熟成方法を試みているのは言うまでもありませんが)
また、瓶詰の際に加水をしないボトラーもあります。通常、オフィシャルの多くは、樽のなかで眠っていた原酒(アルコール60度前後)を瓶詰する前に、水を加えて約40度くらいに度数の調節をし、飲みやすくします。それが、加水しないボトラーものは、樽に眠っていた力強さそのままを堪能できるわけです。そうすれば、飲む時に自分好みの分量の水を足す、というような楽しみ方もできます。
さらに、同一の蒸溜所、同時期の蒸留原酒であっても、熟成庫のあっちとこっちの場所、またはそれぞれの樽の個性によって仕上がりのばらつきがでます。そのためオフィシャルでは、一度大きな器に移して均一化してのち瓶詰します。ところがボトラーは、樽単位で瓶詰(シングルカスク)する場合、例え同時期の原酒であっても樽(カスク)による違いを見いだして楽しむ、という、ほとんど重箱の隅をつつくようなコアなファンの要望にも応えられるのです。
(後編へ続きます。)