「西麻布バーオレンジのオリジナル・カクテルは無いのですか?」とよく聞かれます。お客様のご要望に応じて即興で創る、一夜かぎりのそのカクテルが、オリジナルと言えばオリジナルかも知れませんが、名前までは付いていません。
実はメニューには載せていませんが、正真正銘、名前をつけた西麻布バーオレンジのオリジナルも幾つかあります。今回は、雑誌の取材を機に誕生したそのうちのひとつをご案内します。
- ケナクレイグカクテル
- スコッチ・ウィスキー
- 3/4
- ドライ・ヴェルモット
- 1/4
- ポート・エレン
- 1tsp
- 以上をステアしてカクテルグラスへ注ぐ
「ケナクレイグ」というのは、スコットランドのキンタイア半島にある土地の名前です。荒涼としていて辺鄙な場所ですが、ここからカーフェリーが出航します。行き先には、シングルモルト好きにとって聖地とも言える「アイラ島」があります。この島でボウモアやアードベッグ、ラフロイグといった、個性の強いシングルモルトウィスキーが生まれるのです。
上記のスコッチやヴェルモットには具体的な銘柄の指定はありませんが、「ポートエレン(これもアイラ島産シングルモルトの名前)」は銘柄指定です。
初めて彼の地を旅行した際、慣れない土地と、慣れない車の運転(私は免許を持たないので、代わりにペーパードライバーの妻が運転)、一泊目だけは日本から予約しておいた宿がアイラ島にあるため、なんとしてもカーフェリーにはぜったい乗り遅れるわけにはいかない(この便を逃すと次は翌朝)けれど、ちゃんと間に合うだろうか…という焦燥感。
そしてなんとか辿り着いたケナクレイグ、ふたりとも心身共に疲れきったけれど、でもこの海の向こうに、まだ見ぬ憧れの島があるんだとの想い…。
という、こうしたホッとした気持ちをグラスの中に表現した1杯です。ポートエレンとは、シングルモルトの一銘柄でもあり、また、文字通りアイラ島の玄関港でもあります。フェリーではアイラ島まで数時間かかるため、ケナクレイグからは当然、島影すら見える筈もありません。それでも、かすかで、かつ大きな期待と喜びのアクセントとして「ポートエレン」を少量レシピに加えているゆえんです。
このカクテルは「ロブ・ロイ」という、スコッチをベースとした有名なカクテルをヒントにしたものです。強めのカクテルですが、オン・ザ・ロックにしたり、またはシェイクして作れば、うんと飲みやすくなると思います。ぜひ「疑似スコットランド旅行体験」をお楽しみ下さい!
「ケナクレイグ」カクテル掲載誌 エスクァイア 2000年8月号
オレンジ便り 2004年 6月配信分
追記:その後メニューに載せました。写真は、現地の空港に降り立ってから買った地図帳です。ケナクレイグを黒ペンで何度もガシガシと囲んでいるところに、いま見ても当時の必死さがなんとなくうかがえます。
ちなみに、左下に延びるピンクの蛍光ペンの先がアイラ島、それとは別に、緑色の太いルート(A83という表示が見える道)を、そのままケナクレイグを過ぎて南下すれば、日本でもファンの多い銘柄、スプリングバンク蒸溜所のあるキャンベルタウン地方へ行けます。フェリー乗船までに余裕があれば訪れる予定でしたが無理でした。時間的には微妙、身体的にはヘトヘト、精神的にはヘロヘロ、でした。