落語「寿限無」の中に出てくる「五劫(ごこう)のすりきれ」の五劫って、何のことだかご存じでしたか。私は恥ずかしながら先頃(当時)それを知り、そして、知った瞬間は軽い目眩にも似たような驚きと、それに感動を覚えました。ズバリ、五劫とは「時間の単位(長さ)」なのだそうです。その長さがどのくらいかと言いますと……、
岩があります(具体的にどれくらいの大きさなのかは判りませんが、岩というくらいですから、ある程度の大きさはあるのでしょう)。その岩を「百年に一度」だけ、天人の柔らかな衣でサッとなでます。なでるだけです。きっと柔らかい衣ですから、目に見えて削れたり壊れたりはしません。でも、ほ〜んのちょびっとくらい、岩は摩耗するでしょう。やがて百年が経ち、またひとなで、ちょびっと摩耗。そしてまた次の百年が来て、ひとなで、ちょびっと摩耗……を繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し、そうして、やがて撫で尽くして岩が「すりきれ」て無くなった時をもって、ようやく「一劫(!)」(五劫は当然、一劫の五倍)。
齋藤孝「にほんごであそぼ 雨ニモマケズ」集英社
……というふうに、人智では計り知れない空想をするのは、たまに夜空を見ては、星までの時間や距離、いま見ている光はどれくらい前に出発したんだろう…、などと思いを馳せては我に返り、軽いストレスや小さな悩みくらいは雲散霧消してしまうのに似ています。
そして、その他のストレス解消法としては、西麻布バーオレンジで過ごすひととき、というのもまたお勧めです。五劫、とまでは言わないまでも、30年や50年熟成のウィスキーやブランデーを嘗めながら、それくらいの年数に思いを馳せるのは可能です。
オレンジ便り 2005年 11月配信分